人生は一行のボオドレエルにも若かない

というわけで、先日に引き続き、お片づけをやって参りました。

1階から8階まで、民俗学・言語学・国際なんちゃら学と、とにかく文科系が詰め込まれたビルなわけですが、各階からの被災物件が一階の芝生の上に大量に置かれていて、なにやら全共闘か荒れた高校の文化祭のような雰囲気になっていました。



多くはひしゃげた本棚、ひしゃげた机、ひしゃげたPCラックとかそんなものでしたが、「明らかに地震とは関係ねーじゃん」という部屋がブルブルしたのを奇貨として要するに断捨離したものも多かったように思います。


とりわけ多かったのが椅子です。

座業のせいか、やはり皆様椅子にはそれぞれこだわりがあるようで、いったい研究室で何をしていたのかが気になる場末のラーメン屋においてありそうな殺伐とした丸椅子から、もはやどこにどうやって足をかけると座ることができるのかが良く分からないけど、きっと腰痛に良いとかなんとか訳のわからない売り文句とともに真夜中の通販で売っていそうな椅子まで多種多様でした。

ただ、捨てられたかわいそうな椅子たちに基づいて捨てられなかったであろう椅子のことを推察するに、ようするに普通の椅子が一番良いのではないかという気がしないでもありませんでした。

ま、タイヤが付いた椅子なんかは、地震だけではそれほど壊れるということは考えられないわけで、どさくさにまぎれて期待外れの椅子どもを捨てまくったのでせうね。


しかし、椅子などと比べるべくもなく、種類と数において圧倒的に多かったのが、なんといっても「紀要と抜き刷り」です。

天井から大量の水が噴き出る場合は別として、地震が来ても紀要と抜き刷りは壊れませんね。

色々さしさわりがありそうなので写真は撮りませんでしたが、椅子とかそういったものとは別枠に、ゴミ捨て場の一角に「紀要・抜き刷りコーナー」が出来上がっておりました。

捨てられた紀要と抜き刷りを見て思ったのは、やはりカントは偉大だったということでしょうか。

各階から集められたであろう論文の山の題名だけを見ても、少なくないものがカントに関係していたように思います。
まあ、日本人がカントが好きなのかもしれませんが。

一ヶ所、やたらと『判断力批判』が集めて捨てられていましたが、あれはなんだったのでしょうか。

極論すると上中下の下だけ捨てるのと変わらない気がするのですが、気にならないのでしょうか続きが。
あるいは、結末がつまらなかったのでせうか。これがないと美術館に行けなくなってしまうのですが・・・


しかし、地震ということを考えると、つきつめると本を貯め込んで行くのが仕事の研究分野というのは、なんとも億劫な気分になるわけで、どうにか本のいらない生活を実現できないものかと思案しました。


(1)研究をやめる
  これが一番即効性がありますが、前提が覆っていますね。


(2)すべて電子書籍化する
  やってるやつの気がしれません。


(3)先行研究もないし誰も研究しないし仮に研究してても論文を書く気が起こらない対象の研究をする
  たぶんその研究をする意味がないから駄目ですね。


(4)無文字社会の研究をする
  全然駄目ですね。無文字社会についての研究書は山ほどありますね。


(5)無文字社会で研究をする
  一瞬名案かと思いましたが、無文字社会において研究なるものが果たしてどのような位置づけをもっているのかが難しいところです。


(6)出家する
  たいていの問題は解決してくれるイメージのある出家ですが、経蔵とかあるくらいだから出家しても本については解決しませんね。


(7)全員同じ研究をする
  「全員」が果たして誰なのかで揉めるので駄目ですね。


(8)ボルヘスの「バベルの図書館」を実現する
この図書館の本の条件は次の3つです。
条件1:全て同じ大きさの本で、一冊410ページ。どの本も1ページに40行、1行に80文字という構成。また本の大半は意味のない文字の羅列で、題名が内容と一致しないことが殆どである。
条件2:全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。
条件3:同じ本は二冊とない。
  ・・・・これって図書館なんですかね。
  しかし、このアイディアからは次の(9)が導けます。


(9)鎖国して言葉を減らす
  特に日本語はやたらと文字が多いですし、漢字が途方もないです。そこで、言葉狩りをもっと激しくして、文字狩くらいまでやって、漢字は絶対禁止で、「あ」と「い」と「う」しか使用できないことにしてしまえば良いわけないですね。


(10)本を買わない
  これは(1)と一緒ですね。


と、恐ろしく低レベルな堂々巡りをしてしまうわけで、いつかはボオドレエルのように蔵書は聖書1冊にしたいものです。。。