よこあま

というわけで、しばらくブルゴーニュの丘で修道生活をしていたため、リヨンに戻ってきた時には、もうどうしようもなく体に悪い事がしたくてしかたありませんでした。

また、質素な食事とはいえ、それはあくまでフランス風に質素であるため、質素な和食がもたらす飢餓感とは別の種類の飢えが上乗せされていました。

そんなわけで、パリならば金太郎とかヒグマとか、そういうところに行くのですが、リヨンの和食事情はさっぱり分かりません。

なので、ホテルのレセプションで聞いてみると、「おいおい、じゃぽね、もう歩いて五分に日本食レストランがあるぜ」みたいなことを言っています。

というわけで、サマータイムに移行したせいで、まだまだ明るい夜のリヨンを歩いたら見えてきました。

「あ、ヨコアマだ!」と叫ぶと同時に、もう胡散臭さ満点です。

メニューを見ると、寿司と串焼きしかありません。

しかも、コース・メニューの名前が、春、夏、弁当です。

いや、別に弁当を売っているわけではなく、「弁当セット」というコースメニューがあるようなのです。

「たぶんジャポネじゃねーな。でも、あまりにフランスにいすぎて、すこしおかしくなったジャポネかもしれない」と思いつつ、ドアを開けました。

すると客はひとりもおらず、忍者風パンタロンに祭り風の上着をおめしになった中国人が10人ほど振り向きました。

というわけで、最初から日本語は諦めて、フランス語で「誰か日本語を話せる人はいるの?」と聞いたら、非常に残念そうに、皆様首を横に振られます。

うーん、やっぱパリはパリ、リヨンはリヨンですね。

その後、近辺で4つの日本食レストランを見つけましたが、そのうち三つが中国人経営、一つは韓国人経営でした。

てんぷら定食にキムチが出てくる世界です。

サイードがどっかで、エジプト人である彼の母が、いつまでも英語の発音が正しくできず「エドワード」のワの母音が思いっきり「あ」になっている、嗚呼、故郷を持たない者こそが美しい、みたいなことを言っていました。

とはいえとはいえ、リヨンではまだだれもオリエンタリズムは読んでいないようです。

あるいは、客がいないところをみると、アジア出身の滞仏者の方が、まだ『逆光のオリエンタリズム』を読んでいないだけなのかもしれません。

そんなわけで、たのしくケバブを食べました。