まるで人がアリのようだ

サンチャゴ巡礼の最大の難点は,最大の難所が一番最初にあることです。

初日に,ピレネーのフランス側にあるサン・ジャン・ピエ・ド・ポーという村を出て,スペイン側のロンセスバジェスという巡礼しかいない村まで,28kmくらい歩きます。


私の場合,中盤以降は,毎日最低30km,多い日は50km歩いていたので,28kmというのは,少ないように思えるのですが,しかし,ピレネーを越えるわけですから,厳しいアップダウンが続くわけで,その分距離はかせげないわけです。

この日ほど,「峠」という漢字がいかにそのまんまかを実感したことはありません。

しかも初日だし,他の巡礼の方々とは違って,アメリカ大陸を徒歩で縦断するみたいな一層貧しいドロンズのようなことはしたことがありませんし,四国は車でしか行ったことがありません。

あるいは,オランダやスイスの家の前から巡礼を始めたわけではありません。

なので,一日に30kmも歩いたことはないわけですから,どういう感じでやればいいのか分からないのに,にもかかわらず,道自体の難易度が高いというのがまいっちゃいます。

その後のルートにも色々難所といわれる場所がありますが,ピレネー越えに比べると,ほとんど散歩みたいなものでした。

ナバーラのぺルドン峠なんかが典型ではないでしょうか。

ここでは,あまりにきついため悪魔が信仰を試すとかなんとか,なんかヤンキーとかが好きそうな都市伝説みたいのがあるのですが,「まさか,こんなに楽なわけねーよな,悪魔いねーし,まだ峠はじまってないんだろうな・・・」とか思いながら歩いていたら,モニュメントがいきなり目の前に出てきて下りが始まっていました。

とはいえ,巡礼初日なわけですから,色々楽しいのも事実です。

前にのっけたような,ケバブとか牛とかが道を塞いだりしていて,写真じゃ伝わらないでしょうが,牛なんかの場合,「万が一こいつに蹴られたら,絶対に死ぬ」という強い確信を持って,すぐわきを通り抜けたりするわけです。

あるいは,最初の巡礼事務所で渡される紙に書かれた注意事項なんかに,「ハト狩のシーズンなので,撃たれないように気をつけて下さい」とか,「オオカミや野犬が出た場合,冷静に対処して下さい」とか,無茶な注意事項が書いてあるわけです。

で,実際,山の中に入っていくと,すげー近くで銃の音がするわけです。

そうするとこちらとしては,当然ハトの真似して歩いてみたいりするわけで,こういうのは非常に楽しいですね。

しかし,一番安易な「風景に感じ入る」のだけは,巡礼の行程全体を通じて,やや注意です。

たとえば,最初のうちは,こういうような風景を見て,「すげーデスクトップの壁紙みたいだ」とか,まあ一応お約束ですからということで,「まるで人がアリのようだ」とかって感じ入ってみたりするわけです。

しかし,罠があって,だいたい3時間後には,その風景の中で「この坂,急すぎだろ」とかブツブツ文句を言っている自分がいるわけです。

特に高い山なんかの場合は要注意です。

「あ,あんな高い山の上に教会が建ててある。昔の人は偉いなー」とか言ってると,だいたい2時間後には,その教会の前でぜーぜー言ってたりするわけです。

しかし,体育会系スペイン人にはこれがたまらないらしく,他にも色々なルートがあるにもかかわらず,ピレネー越えがあるフランスの道が一番人気なのだそうです。

まあ,たしかに,「気づき」みたいな柔らかいアモルファスな世界とは無縁の猛者というか,野人というか,野猿みたい方が多かったような気がします。

仲良くなったスペインのお兄さんも,職業は職業軍人なわけで,まあ,巡礼は基本的には体育会系なのでせうね。