A Bout de Souffle

慎太郎が「数を数えられないからフランス語は国際語として不適切」と発言したのに対して、在日フランス人だか語学学校経営者だかが20人くらい集まって訴えを起しました。
名誉を傷つけられたそうです。
この発言によって学校経営業務が妨害されたそうです。
フランス語は国際語として十分に使用に耐えうるものだそうです。

第一印象としては「フランスのどん百姓があやつけやがって、つけあがると強制退去させるぞ」というところでしょうか。

シラクが日本人を愛人にしていて(誰もが知っている女優さんの浅野某という噂がありますね。忠信ではないと思います)、年に何回もお忍びで伊豆の温泉だか奥の細道にやってきていて、それをフランスの新聞記者に問いただされた時に、「だから、何が悪いの?」と近頃の若者のような逆ギレで対応したことがあります。

これって日本人の名誉を傷つけていないのでしょうか?
そこらのおっさんならともかく、一国の大統領が日本人を愛人にして(どちらも一夫一婦制の国です)、そこに何の倫理的呵責も感じていないとしたら、数がどうのこうのというよりもよっぽど帝国主義的発想を同意署名するものとなる気がします。

グラン・ブルーを始め、フランス映画では日本人というのは徹底的に「間抜けな民族」として描写されてきました。
フランス語の名誉?などという抽象的なものよりも、こちらの方が大きな論件ではないでしょうか。

だいたい今時、フランス語を勉強しようとする人なんてよっぽど目先の利かない人でしょう。
賢い人は中国語かアラビア語でもやりますよね。
もともと毀損されるに値する名誉などフランス語にはありません。

しかもこのニュースを報じるYahooニュースのリンクには、鳥取だか島根だかのフランス語学校のHPがリンクしてあって、そこにははっきりと「フランス語の数の数え方は外国人にとっては嫌なものです」みたいなことが書いてあります。
別に嫌ではありませんが、極めて非合理的な表現をすると思います。
数の数え方に関しては、英語のシンプルさと比較すると、国際語としては極めて不適切だと思います。

だいたい「国際語」という観念自体、そうとう危ない概念です。
なんかフランス人は、フランス語が美しいから、あるいは明晰だから国際語になったみたいなことを考えているようですが、単に昔々帝国主義的な仕方で植民地を増やして、そこの住民にフランス語を強制したからですね。
フランス人ってジャック・デリダとか知らないのでしょうか。

そう考えると、19c,20cのチャンピオンであるイギリスとアメリカがどちらも英語を母語とするために、現在は英語帝国主義なのは当然ですね。
裏を返せば、フランス語はもうとっくに衰退した国なので、フランス語は国際語として不適切だと思います。

「そもそも外国語の学習というのは不条理な暴力に身をさらすことである」みたいなことをデリダが言っていました。
文法であれ単語の意味であれ、それを外国語として学習する者にとっては、あらゆる言語は極めて恣意的に構成されています。
自動翻訳機のプログラムが組めないのもこれが理由です。
現在、使用に耐えうるものは、結局例文をひたすらストックしていくタイプのものだけです、人と一緒です。

そして一方で、ある言語は、それを母語とする者にとっては全てが自明です(苦労しているのはブッシュくらいですね、大統領のくせして使役動詞が使えません・・・)。
デリダはこの差が暴力を生むのであり、外国語の学習とは、この暴力に身をさらし、皮膚に無数の傷をつけていくことである、みたいなことを言いました。
そして、語学が得意な者とは、この不条理な暴力に簡単に身をまかせてしまい、傷つけられることに馴れた不感症の人である、と言います。

今回訴えをおこした人々は、外国語学習が暴力に身をさらすことだとはたぶん分かっていないでしょう。
語学学校を経営する人にはろくでなしが多い気がします。
「外国語を覚えて世界とコミュニケートしよう」みたいな、幕末開国派みたいな寝言を未だに唱えていたりします。

それはちっとも素晴らしいものではありません。
その証拠にフランス人は語学を勉強することに関して極めて無気力な国民です。
パリ東駅(ドイツ方面への列車が発車する国際駅。アウシュビッツ行もここから出ました)のインフォメーションに5,6人たむろしている人々は一人も英語が話せません。
そりゃ、自分の母語が国際語になれば楽なわけですよね、不条理な暴力に身をさらす必要はありません。

ですが一方で、妙な言語ナショナリズムから、フランス語審議会は英語の流入を防ごうと必死になっています。
それで出てきたものとして、computerといわずにordinateurと言うことであり、e-mailといわずにcourrier electriqueと言うことです。
こればっかりはフランス人も面倒くさいようです。
サンドイッチもあるらしいのですが、誰もしりません。

「最後の授業」とかそんな話があります。
ナチスが来るから、フランス語で授業できるのは今日で最後です、ぐすん、悲しいね、みたいな話です。
あの話はアルザスあたり、つまりドイツとフランスの国境付近の地域が舞台になっています。
で、もともとそこの住民はドイツ語のネイティブなんですね、だからナチスが来てフランス語が話せなくなってもまったく困らないのです、というかフランス語を強制されていたのです。
だからあんな先生もいませんし、あの話自体はそもそも作り話です。

フランス政府は散々抑圧してきたくせに、現在あわてて国内の希少言語、バスクとかブルトンとかを保存しようとしていますが、もう手遅れですね、ジジイとババアがおぼろげに覚えているくらいです。
今回訴えをおこした傲慢な人々にはこういうことを考えて欲しいですね、たぶん無理だと思いますけど。