見たかったのは一本背負い

フェデラーってタランティーノみたいだな〜とか思いながら月曜日の早朝からウィンブルドンを見て、そのままフランス/イタリアの決勝戦を見て、そのまま立山実習事前勉強会に出席して、そのまま宴会になって(例の事件が時効をむかえ、滝川クリステルさんがいらっしゃいましたね)、そのままカラオケに行って、そのままIM邸リフォームに立会い(室内ドアに覗き穴ができました)、やっと帰宅(最寄り駅近くで安めぐみさんがいらっしゃいましたね)・・・みたいな野蛮な生活を送っていたので知りませんでしたが、メディアでは、ジダンのヘディングはあまりウケてないみたいですね。

私は、もちろん、フランス語選択の理由の40%がジダンであるだけに、ファナティックに100%ジダンを支持します。
いいじゃん、偉大な選手なんだし。

現役の最後の最後がW杯決勝で、しかもヘディングで一発退場なんて、かっこいいじゃないですか。
マラドーナの神の手以来ですね、こんなに胸にキュルルンと来たのは。

多くの報道では、要は「スポーツマンシップに反する」みたいな御託を並べて、ジダンがやったことも非難されるべきだというような、下らない論調になっています。
もしもあれが、他の選手だったら非難します。

でも、柳沢とジダンは例外です。

日本人としては、試合中に自分がどちらのチームに属しているのかが分からなくなって、味方からのセンタリングをクリアしちゃう選手は、いない方が良いからです。

で、ジダンの場合は、もちろん彼がスポーツマンシップなんていう、西欧先進国のエリートの繰言なんかを気にかけるような環境でサッカーをやってこなかったからです。

すでに散々報道されているのでご存知だとは思いますが、ジダンはアルジェリア系移民の第二世代です。

でも、これは正しくなくて、実は、アルジェリアの中でもさらに少数民族であるベルベル人の血を引いています。つまり、ベルベル系アルジェリア系フランス人です。

で、こういう人たちは、フランスでは恐ろしく疎外されます。どうせわれわれには想像できないからしないほうが良いくらいにです。

フランスには世界中から移民が来ますが、アルジェリア系はその中でももっとも悪い環境に置かれます。
たとえば成人男性の45%が失業です。

ジダンは13歳からプロ選手として活躍しますが、それも生活のためであり、そうしないと学校に行けないからです。

ジダンは小さいころから柔道をやっています。
これは、シラクが愛人連れて奥の細道を歩いたり、相撲を好きなのとはわけが違います。

巴投げくらいできないと、マルセイユのゲットー(フランス政府はフランス国内にそんなものはないと言っていますが・・・)では女の子とデートもできないからです。

つまり、ジダンにとってはサッカーはスポーツマンシップを表出するための儀式的・宗教的な場ではありません。

そこは生活がかかった場所であり、“エンパワーメント”の場であり、 “ブールの英雄” (フランス語では第二世代以降を、アラブをもじって“ブール”と言います)である彼には、テロリスト呼ばわりされ、ママンがビッチと言われたなら、頭突きで張り倒す“義務”があります。

この辺は、ベッカムが、ベッキンガム宮殿などという、日本で言えば演歌歌手にしか許されないような感性の家を建ててしまうこととも繋がるはずです。

ちょっと前にFIFAが発表した近代サッカー・ベストプレイヤー50で、ジダンは堂々の一位です。

ちなみに、ベスト20くらいは、ジダン以外はペレとかベッケンバウアーとか、かつての選手です。現役のままで一位になってしまったのです。

そんなわけで、私はジダンは100%支持されるべきだと思うのです。
カナル・プリュスのインタビューで、

子供たちには良くないものを見せたけど、おれも男だし、三回言われたら、ああしないわけにはいかない。今でも全く後悔していない。後悔したら相手を承認することになる。

というようなことを言ってて安心しました(でも、マテラッツィも良かったですね。普通ならば3年経てば忘れられてしまう選手だったのが、この事件のおかげで、ジダンと共にその名は未来永劫残ります)。

私たちのエースは30前になって、まだ自分探しとかバブル期のお気楽大学生みたいなことを言って、ボール蹴りをやめて、ニューヨークに妙なビルを買いました。
とても恥ずかしいことです。

たぶんジダンはそんなことを考えもしないだろうし、万が一、一時的な記憶喪失にでもなって自分が誰かの確認が必要な時には、どんなものでも良いから最寄の書店で『サッカーの歴史』みたいな本を手に取れば、自分がどういう人か分かるはずです。

「サッカーしか知らない人間にはなりたくない」。
そう言った私たちのエースは、そんことを言えるような恵まれた境遇にいる人がどれだけいるかをまったく分かっていない「サッカーしか知らない人間」であることを暴露してしまいました。

個人的な感想ですが、中田を見ても別に感動もしないし、彼の村上ドラゴンの手直しのような言葉にもなんとも思いません。

でも、ジダンのプレーを見て感動しない人を探すのは難しいだろうし、7月10日の早朝にジダンの頭突きを見た時には私は元気がでてきました。

もしもあれが一本背負いだったら、翌日から柔道を始めてましたね。
というわけで、大学であうなり、靴まで買ってイタリアを応援されていたAKD氏に、早速頭突きをしてしまったのでした。