モダン・ポピュリストの顛末

というわけで、明日からは仙台で楽しい学会です。

どういうわけだか、雲の上の方々のパネルの末席に座らせて頂くことになり、慌てて付け焼刃的に知識を詰め込んでいます。

なんとなく流れで、現代フランスにおける人種差別というか、早い話は文化ナショナリズムを出発点に発表することになりました。

そんなわけで、とりあえず発表原稿とは直結しないまでも、場合によってはそのことに言及する可能性もあるので、彼の地の右回りのお兄さんお姉さんに関する本を読み漁っています。

その中で、学術書ではないのですが、山本賢蔵『右傾化に魅せられた人々』がめちゃくちゃ面白かったです。

右傾化に魅せられた人々―自虐史観からの解放

右傾化に魅せられた人々―自虐史観からの解放

誤解を恐れずに言えば、現代欧州には非常に個性豊かな排他主義者、特に反イスラム主義者がたくさん現れています。

その主義主張はとるに足らないものですが、彼らの人物像・経歴は正直興味深いですし、彼らが唱えるとるに足らない主義主張が、なぜにこうまでも人口に膾炙するのかということは真摯に問われるべきです。

まず、フランスでは、国民戦線党首のジャン=マリー・ルペンです。

大学のゼミで一度、「気合の入った石原慎太郎」と説明したことがありますが、今思えばそれほど適切ではありません(っていうか、酷い説明だな・・・)。

ルペンは漁師の息子として生まれ、弁護士を目指してパリ大学法学部に入ります。

パリ大学と言えば、文学部はいわゆるソルボンヌですし、なにやらエリートな雰囲気が漂います。

ですが、フランスには、大学の上にいわゆるグランゼコールという本当のエリート組織が控えているので、パリ大学というのは、間違いなく庶民派ということです。

で、庶民ルペンは、そのあたりから右回りの学生組織に加入し、インドシナ戦争やアルジェリア戦争に従軍したりします。

でも、インドシナはついてすぐに戦争終わるし、アルジェリアも結局は負け戦です。


そんなこんなで、ルペンの中には、戦後の左派中心のフランス政治に対する不満が募ってゆき、後年の「アウシュビッツは些細な問題」発言に結びつく、暗い暗い情動が形成されてゆきます。

なんでも目が悪いらしく、極右組織を作っては解体していた頃には、フック船長ばりの黒い眼帯をしていたそうです。

そんなこんなで、一度は20代で最年少の国会議員になりましたがすぐに落選し、怪しげなうだつの上がらない極右をやっていたのですが、ある時、彼は一夜にして大金持ちになります。

ある大変に孤独で熱狂的な極右のパリの大富豪が、全ての財産をルペンに譲るという遺言を残して死にます。

この大富豪は、死ぬ直前には広大な応接間の絨毯をトリコロールで染め上げたりと、早い話、精神に異常をきたしていたのですが、兎にも角にもルペンはパリ郊外に大豪邸を手にいれ資金を手に入れ、私だったらこのあたりで引退しますが、以後、着々と国政に進出します。

その結末の一つが2002年のルペン・ショックです。

フランスでは、「ルペン」は「ナチス」と同義語で、公に彼の支持を表明すれば色々なものを失うことになります。
したがって表立って支持表明する人は少ないのですが、選挙をしてみれば、国民戦線は20%を獲得します。

つまり、「隠れ国民戦線」みたいのがたくさんいて、「フランスは自虐史観(オート・マゾヒズム)という精神のエイズに冒されている」なんていう、どっかで聞いたことあるような主張に同調するわけです。

ちなみに、ルペンの後継者と目される国民戦線ナンバー2のゴルニッシュは、日本通として知られています。

日本の法律が専門で、京大で博論を書き、リヨン大学で日本文化の講座を持つ教授でした。奥様も日本人です。

彼の演説の方がルペンよりもスマートで、下手をすれば、本当に高い地位まで登る可能性があります。

ついでに言えば、ゴルニッシュは当然として、ルペンも日本には「同情的」で、はた迷惑なんですよね。。。

他の欧州国に目を転じれば、オーストリアのイェルク・ハイダーなんかもいかにもカリスマ・ポピュリストって感じですね。

俳優ばりの男前で、アルマーニのスーツなんか着ちゃったりして、テニスもスキーも乗馬も恋愛もバリバリで、バスローブでテレビには出ちゃうし、オーストリアというドイツなんだかそうじゃないんだかよく分からない国に、なんであれ一つの国民国家としての際やかなアイデンティティを与えるそぶりで人気を得ています。
ただ、やっぱその信条は単純で、物事は「超うまく」いくか、「全然ダメか」のどちらかというものだそうです。

極めつけは、オランダのピム・フォルトゥインでしょう。

同性愛者であることを公言し、スキンヘッドで、すらっとした感じで、チョイワルなスーツを着こなして、常にペットの二匹の小型犬を連れて歩いていたそうです。
「住みよいオランダ」という新規のイスラム系移民の排斥だけを唯一の主張とする政党を作り、「イスラムは遅れた宗教だ、同性愛者の権利を認めていない」なんて主張して、セックスライフを公言して、テレビで疲れた時と疲れてない時の精液の味の違いを説明するわ、なんとなく外見のせいか個人的には「となりのミッシェル・フーコー」と読んでいます。

でも、これが凄い人気で、政権入りは間違いないし将来は首相にもなるだろうと言われていたそうです。

ところが、総選挙の直前、ルペンが決選投票に残った時に、なぜか白人の環境保護家に射殺されてしまいます。

・・・というわけで、とんでもないのが沢山いるようですが、これらの背景には大きく言えば、グローバル化の進展、端的に言えばEUの展開によるアイデンティティの動揺があるそうです。

多次元的アイデンティティなんてのは知識人の御託で、一般人には無意味なわけです。

先に挙げた国民戦線のゴルニッシュの言葉が印象的です。

…でも、もしアジアで〔EUと〕同じような組織を作るといったら、どうだろう?

例えばソウルに議会が出来て626人の議員で構成される。そのうち200人は中国人で、100人がインドネシアで、80人が日本で、40人が韓国で……〔中略〕そんな議会が出来て、そこで外交政策が決められてしまう。

香港かシンガポールあたりにアジア中央銀行のようなものが出来て、そこで財政政策が決められてしまう。日本の財政赤字の限度なども決められてしまい、それを越えると制裁があったりする。

加盟国の間では、人が自由に国境を越えて行き来できるようになる……。はたして日本人みんなが、そんなシステムに賛成できるだろうか?
(山本前掲書,pp. 121-122.適宜改行)


たぶん賛成しないでしょうね・・・・怒られるかもしれないけれど、私自身、ものすごく正直に言えば、直感的になんとなく嫌です。

ともあれ、フランスに限らず、欧州に限らず、政治的な左派/右派/極右の独自性がなくなり(それ自体は絶対的に悪いことではないですが)、ポピュリストの活躍する余地を生み出していることは間違いないでしょう。

個人的には、右回りの言説も左回りの言説もどちらもアホっぽくて、鳥肌実くらいしかまともに見てられないのが現状です。

特に、いわゆる左は、相対的に笑いのセンスがないだけ酷いと思ってしまいます。
出身大学じゃ、いまだに「大学解体」もどきの子供の遊びをやってるそうです。自分が言っていることを分かっているのでしょうか。


・・・・と、以上のようなことを発表したら、「自分で言っていること分かっているのか」とかって、後で怒られるんでしょうね。