落涙装置
というわけで、やらなくてはならないことが山積していると最もやらなくて良いことをやってしまうのが、やがて悲しき駄目院生の性ですが、リリー・フランキーの『東京タワー』を読了しました。
- 作者: リリー・フランキー
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2005/06/28
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 445回
- この商品を含むブログ (1440件) を見る
一読して驚愕。
これが沢山売れていて、全国の書店店員のお薦め第1位になっていたそうです。
たしかに面白いのは分かりますが、あまりにべたじゃないでしょうか。
誰かが言っていたように、「電車男」(オタクに彼女ができるだけ)とか「世界の中心でなんとやら」(ただ人が死ぬだけ(絶望先生))と同じく、「てっきりネタかと思っていたらベタだった・・・」の典型です。
問題のある父親がいて、母親と色々二人で苦労してきて、でもママンが死んじゃった・・・ただ、これだけです。
たしかに「ただ、これだけです」とか言い出したら、
『罪と罰』だって婆さん殺して改心するだけだし、
『失われた時を求めて』だって夏休みを思い出しているだけだし、
『見えない宗教』だって特殊なのは教会志向型宗教だけだと言っているだけだし、
『オリエンタリズム』だって西欧の東洋表象は制度化されていると言っているだけだし、
『レザボア・ドッグス』だって銀行強盗して仲間割れしただけですし、
『異邦人』だってママンが死んで複合過去形でルペンみたいなことをするだけだし、
『無為の共同体』だって何も共有するものがないという事実しか共有できないと言っているだけです(恐らく・・・)。
とはいえ、なんというのでしょうか、『東京タワー』と『異邦人』の間には深くて暗い川が流れている気がします。
『東京タワー』は、「ほら、泣いてもいいよ」みたいなメッセージをあまりに直裁的に打ち出しているため、「誰がこんな与太話で泣くか!」みたいになってしまいます。
アマゾンの評価でも、☆5つで泣けた泣けたと皆さん嬉しそうに書き込んでいるので、この本が、手軽に泣くための装置として書かれているのは間違いないでしょう。
かくいう私も、ラスト近くの突然挿入された入院のスケッチで危うく落涙しそうになったので、こんなので一滴でも涙を流したら恥と思い、YouTubeでブラックマヨネーズの漫才を流しながら読みきりました。
こんなのが「国民的名作」(アマゾン)とか言われるのって危険な気がします。ポピュリズムに動員されるのって、こういうのを読んで泣いちゃって、そういう自分を許せるどころか愛しく思っちゃうタイプの人々なのではないでせうか、すべて独断ですが・・・・・
流石に普通の人なら、相田みつをを絶賛しちゃうあたりで興ざめするんじゃないでしょうか。
リリー・フランキーのその他のエッセイは面白いし、女の子がいくらアディダスのSL−76(used)を9万円出して履いてても、男からみれば「汚ねぇズックの女」に他ならない、みたいな意見には賛成ですが、この本はいただけませんでした。
ところで、東京タワーって取り壊しが決定しているんですね。知らなかった・・・
代わりに我が家の近くに新東京タワーができるそうです、安藤忠雄だそうです、600m超えで、完成すれば世界最大の自立式建造物だそうです(非自立式建造物ならば、もっとデカイのがあるのでしょうか・・・)。
冷静に考えると、かなりデカイ地震なんかが来たりして、タワーが激しく倒れると、ひょっとすると我が家にその切先が届くかもしれません、おっかないですね、やめて欲しいですね・・・