Paris je t’aime

というわけで、あまりにやんごとないパーティーの前なので、少しまともなことをしておかないと、自分の中の倫理的バランスがとれそうもないので、綺麗なお姉さんと『Paris je t'aime』を見てきました。

リンクの公式HPを御覧になっていただければ分かるとおり、18人の映画監督がパリを舞台にした5分間のストーリーを撮ったものを集めたアンソロジーです。

監督も役者も世界中からで、フランス人はもちろん、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァ、『死ぬまでにしたい10のこと』のイサベル・コイシェ、コーエン兄弟などなど色々な人が見られます。

イライジャ・ウッドが出てるやつを除いては、本当に面白いものばかりです。

「5分って、わりとなげー」と思います。

『硫黄島』みたいなものを映画だと思っている人に見せてあげると良いと思います。

もちろん見ていないのでどんな映画なのかは分かりませんが、まあ、12歳以上ならば想像はつきます。

この映画の中では、スティーブ・ブシェミも、ウィリアム・デフォーも、ニック・ノルティも、本当に良い役者に見えます。

彼らがハリウッド映画だけではもったいないことを実感します。

そして、このアンソロジーは、その舞台がロンドンでもリャドでも東京でも北京でもなく、どうしてもパリじゃなくちゃだめな必然性を了解した時に、物凄く深く惨めな事実に気づかせてくれます。

それが特に、最後の「14区」というお話にあらわれています。

この話には羽交い絞めにされてしまいました。

デンヴァーで郵便配達するキャロルの、パリでの“特別な1日”の物語。

ひとりで憧れのパリへやって来た彼女は、ひとりで街を眺め、ひとりで食事をする。

自分は自立した大人の女だし、1人旅は自由だが、「きれいね」と言いたくても誰もそばにいないのは、なんだか味気ない。

そしてある日、キャロルは14区で小さいけれど美しい公園を見つける。

その公園のベンチでサンドイッチを食べていたとき、“あること”が起きる。

ばらしてもまったく興ざめを起こさない素晴らしいストーリーなのでネタをばらします。

もちろん嫌な人は飛ばしてください。

彼女に起きる「あること」というのは、彼女自身の言葉によれば、言表不可能な体験です。

でも、それは単純で、「自分はいまパリにたった一人でいるのだ。そして私はパリを愛していて、パリは私を愛している」というシンプルな事実にどこまでも深く覚醒する体験です。

ただ、それだけです。

でも、マーゴ・マーティンデイルのどこまでもおばさんな容姿とか、しょうもないフランス語とか、そういうものが合わさると、この覚醒物語はとんでもない迫力を持ちはじめます。

もちろん村上龍的に「おばさんはあらゆる機会から疎外されている」みたいな教訓として読み替えることも可能でしょう。

が、それはあまりに退屈です。

「14区」を見るだけでも価値があります。

5分間太ったおばさんのモノローグをみただけなのに、落涙しそうになりました。

是非、見てください。見ないと本当に本当に後悔しちゃいますよ。本当に見てくださいませ。