えあー・・・


というわけで、ぼちぼち大学のゼミが安定飛行に入って、どれに出て、どれに出ないかなんかが決まってきました。

そりゃあ、院だし、今さらゼミもないのでしょう。

が、とはいえ、せっかく遠いところまで来ているのだから、ということで、少し専門からずれたようなものにも顔を出してみたりするわけです。

しかし、往々にして地雷があるわけです。

「ずれてる」なんて次元じゃないような乖離がある時があります。

阿藤快と加藤あい、くらい違います。


なんせ、世界一ホスピタリティに欠ける国の中でも、とりわけホスピタリティに欠ける大学なので、シラバスなんておしゃれなものはありません。

ネットに怪しげな、なぜかコピペできないページがあって、そこに先生の名前とゼミのタイトルと申し訳程度の、何年前からこれ使ってるんだ、というような全く役に立たない主旨説明があるだけです。

で、あらかじめどんな内容かメールで問い合わせても、一通も返ってきません。

なので、行くしかないわけです。

とはいえ、そのタイトルというのも、「表象の社会学」が題名で、「このゼミでは社会学的に表象を把捉する方法論について考える」くらいしか書いてないわけです。

っていわれても、「表象を対象にしない社会学ってあるの?」くらいの感想しかありません。

で、さらにすごいのが、なぜか先生の名前が2人とか、4人とか、多いときは6人とか7人とかクレジットしてあります。

「なぜ、ゼミでリレー講義??っていうか、7人って、昔のバンド??」とか思って行くと、なぜか毎週同じ先生がやっていて、今後の予定を聞いても、他の人々は一切顔を出さない、みたいな本当に良く分からないゼミです(どうやら、残りの先生はみんな超絶的に忙しく、これにクレジットされることで授業をした、ということになるという裏があるようなのですが・・・)。

そんなわけで、実質的には、とりあえず出てみる以外に方法がありません。



しかし、ここで問題があります。

なんか知らないですけど、フランス、やたらゼミが長いんです。

平均すると3時間くらいです。もちろん、3時間だと休憩はありません。

4時間になると、「たぶん休憩あるな」といった感じです。

で、しかも先生がとにかく喋る。

途中で学生が口を挟もうものなら、叩き出す勢いで喋ります。

つまり、良い子に座っていなければならないわけです。

途中退室などもってのほかです。

そんな人みたことありません、あたりまえですが。

なんせ、10人もいませんし、さらに、こっちは東洋人です。

目立っちゃって仕方ありません。



で、これで授業内容が、わりと自分の興味関心に即したものならば何も問題ありません。

しかし、往々にして、というか、だいたい3:7くらいではずれます。

だって、あのシラバスだもの。

日本語で聴いても分からないような話をしてるわけです。

そうだと悟るまでには、15分で十分です。

ということで、その時から3時間45分、とにかく良い子にしていなければなりません。

これで、90分授業ならば、「夕飯は移民街で排骨麺だな・・・」とかやってれば耐えられる範囲です。



ちなみに、私がくらったのが、上記の「表象の社会学」でした。

これはレジュメを配られた瞬間に分かりました。

よく分かりませんが、「シェーマL」みたいなことが書いてあって、そのちょっとしたに「対象a」とか変な図があって、とうとう「大文字の他者」とか書いてあります。

「あ、おれのブログ・ペットが曝されてる!?」と思ったのもつかの間、先生はすでに「ジャック・ラキャンは〜〜」と始めています。

さて、残り3時間55分、どうしたら良いのでしょうか。



寝るスペースはありません。

読書もできません。

しばらくは、なんとか途中退室できる理由を考えます。

サボテンに水をあげ忘れた、お腹がいたい、気分じゃない、やっぱりユングだよね・・・・いずれにしろ、そんなこと言い出せる雰囲気じゃありません。

しかも、先生は虚空を見つめてお話されるわけではなく、こっちが照れるくらいのアイ・コンタクトで攻めてきます。


しかし、当方は所詮、ちょっと振り向いてみただけの異邦人です。

隣席のイタリア人はi-modeでエロ画像を見ています。

しかも、角度的に絶妙で、先生から唯一見えない角度を専有しています。さすがボローニャ出身。

でも、ちょっと振り向きすぎただけの異邦人には、そんな根性ありません。

しばらくは、そのi-modeを覗き込んでみようとするものの、こっちの携帯は画面も小さいし、ダウンロードにも時間がかかって、よく見えないし、他人事ながら、ちょっと苛々します。

また、仮に見えたとして、なんだか変な気分になってきたりしたら、パリ・フロイト学派的なタームで分析されかねません。


で、あとで学友と話して判明したのですが、皆同じことをしています。

同じ必殺技を身につけます。

日本人院生に代々伝わる「エアー聴講」です。

開き直るんです。

「東京-京都往復できるぜ」とか思いながら、すげー理解しているようなふりをするんです。

「この授業を聴くために東洋から来ました、どうも、ラキャンさん」みたいな勢いです。

いかにも感心したように眼鏡とかとっちゃったりしてみたりして。なんにも見えないし。

フィンランドのダイノジの雄姿を思い出しながら、とにかくエアー理解するんです。

ただ、これ、あまりやりすぎると、質問タイムにふられます、「他者a'と自我aを結ぶ想像的な軸」について。。。


で、パリの大学の特徴なのでしょうが、学校の建物が当然一箇所にはありません。

色々なところにあるのですが、なんせ法律で新しい大きな建物を建てることができないので、どうみたって普通のアパートじゃん、みたいな建物でもゼミをやります。

机はイケアで買ってきたやや大きめの食卓くらいで、もう、途中退室もへったくれもありません。

半分、宴席のような感じなので、出ようものなら「俺の酒が飲めないのか!?」みたいな感じになってしまいそうです。

しかもアパートだから、トイレまで部屋の中にあるので、本当に行きたくても行けないくらいです。


この部屋は、エアー聴講の聖地と呼ばれています。

ここではずしたら最後、エアー以外にサバイブする方法はありません。

しかも、やりすぎると、80センチくらいのところに先生がいらっしゃるので、間違いなくふられます。

想像界に安住するのを禁ずる父の名」について、明日の天気を聞くような気さくさで話しかけられます。

もう、観葉植物のようになるしかありません。自分はポインセチアなんだと言い聞かせながら、ひたすらエアーです。

この部屋でエアーしきった人にはエアー・マックスという称号が与えられ、留学生の中でも一目置かれます。

メッカに行ってきたハッジみたいな崇敬を集めます。

プロの探偵は完全に気配を消せるそうで、吉野家のカウンターに30分座っていても注文を取りにこない、みたいな技ができるそうですが、ここではそれくらいの超絶技巧が必要です。

80センチの距離で、ハイデガーのフランス語訳をフランス人に4時間ぶっ通しで注解されると、もう、意識が飛びます。

マルタン・アイデガーって・・・マルタン・アイデガーって・・・マルタン・アイデガーって」みたいなのが、お経のように脳内を駆けめぐります。

「ああ、これがクライマーズ・ハイってやつか」みたいな感想を何度もったことでせうか。。

というわけで、わりと高地馴化はできているのではないでしょうか。

まってろ北壁!!