一年のquaiはBranly

というわけで、こちらは非常に地味な元日ですので、本当は行かなければならないところもあるのですが、ヴァンセンヌの森の中にあるお寺に初詣に行くことにしました。

なんでも、万博の際のトーゴとカメルーンのパヴィリオンを改造した建物の中に、9mの「ヨーロッパ最大」の大仏様がいらっしゃるとの無茶苦茶な情報を知って、なんだかおめでたい感じでしたので行くことにしました。。

行く前にHPを調べた時に、お坊様たちの名前の最後が、みんな「リンポチェ」だったことに軽く違和感を覚えましたが、パリまで来て、贅沢なことは言ってられません。。

で、
駅とバス停は森に隣接して作ってあるのですが、なんせ中が広いので入り口の貸し馬でも借りようかと思ったのですが、馬に乗ってお寺に乗り込むのもあまりよくないかと思って、てくてくあるいていくと見えてきました。

が、

どうやらチベット仏教は元旦は営業しないらしくて、休業中でした。。

仕方がないので、ジャンプして、中を一枚とってまいりました。


で、このどうにもやり場のない不完全燃焼感をなんとかしようと、急遽気持ちをサバルタン・モードに切り替えて、以前、兄貴が取り上げていらっしゃったケ・ブランリ美術館へ行くことにしました。

アンヴァリッドからてくてくあるくこと15分、建物が見えてきました。。

なんだか、この博物館をめぐる論争にぴったりの血液色です。

何には何があるかと言えば、かつての人類博物館とアフリカ・オセアニア美術館の展示品をまとめたもので、2006年6月にシラクの肝いりでオープンしました。

良いとか悪いとかは別として、よくこれだけかっぱらってきたなー、という程に凄まじいものです。

展示品の横の説明には、かっぱらってきた時期が書いてあるのですが、ほとんどが19世紀。

西洋人が、地球にはどうやら自分たち以外にも人間がいたことに薄々気がつき出して、人類学が生まれて、社会学もできて、そのうちキリスト教以外にも宗教があるような気もしだして宗教学がスピン・オフしてきた時期ですね。

どんな御託を並べようと、「人間博物館」に違いありません。

とにかく、シベリアのシャマンの衣装から、ドゴン族の先祖の像まで、ありとあらゆる呪具から装飾品までが、ところせましと並べてあります。

とはいえ、展示してあるのは所蔵品のごくごく一部です。

円形のスロープからは、おそらく美術館の所蔵庫と思われる部分がガラス張りになっていて覗けるのですが、そこに雑然と積まれているものの量がすごい。。。

あんなに太鼓をみることは生涯ないと思います。

そして、あの奥にはあるのでしょうね、マオリ戦士のミイラの首が。。

そもそも、この美術館、当初は、「基礎文明美術館」という名前になるはずだったようです。

しかし、「基礎」という語は、当然、その文明が発展段階の初期にあることを示唆してしまうということになって、紆余曲折のすえ、地名をそのままつけることにしたそうです。

このあたり、宗教生活の「基本的形態」なのか「原初形態」なのかという話題と相似ですね。

とはいえ、絶対に、これらの収蔵品をかっぱらってきた人々は、文明の「原初形態」の証拠品と思って、とにかく世界中に出て行って、片っ端からかっぱらって、パリとかロンドンとかに集めてみて、それで比較が生まれて、学問が始まったのだと思います。

落成式には、レヴィ=ストロースからメアリ・ダグラスまで出席して、シラク氏が「世界の芸術と文化に優劣は存在しない」とのたまったそうです。

そんなことはどうでもいいとして、芸術とか文化ならば、なんでも展示していいのかよ、という点が重要なのだと思います。

文化相対主義は思想じゃないと思います。

責任感ゼロ倫理観ゼロでもいえますからね。

同様にリバタリアニズムも思想じゃなくて、単なる資本主義者の宣言にすぎません。。。。

でも、責任感ゼロじゃなかったら、こんな美術館作れませんよね。。

クロードは何をしていたんでしょうかね。。98歳だったそうですが。。。

「これだから旅とか冒険家とかは嫌いなんだよな・・・」とか思っていらっしゃったのでしょうか。。

・・・・・などという、難しいことをつらつら考えながら見ていたわけではなくて、あまりの収蔵品の多さと迫力に、無類の呪具好きとして釘づけになっていました。

なんせ、初めて参加した学会が阪大だったのですが、結局、2日とも民博に行って、最終的には宴会とペニス・ケースしか記憶にないですからね。。。

もう、ずっとリンガみたいなものばかり、2時間くらい見ていました。

一緒に行った人にも「あなたは頭が悪いんじゃないだらうか」という意味のことを言われましたが、そうなのかも知れません。

でも、本当にシャマンの衣装一式かぱらってきてるけど、これを剥ぎ取られたシャマンはシベリアの寒空の下で立ち尽くしていたんじゃないんでしょうか。

というわけで、外に出てみると、地面にライト・セーバーみたいのがたくさん刺さっていて、帰宅ついでにシャンゼリゼを横切ったらそこもライトアップされていて「うーん、西欧って恐ろしいな」みたいな感想を持ちましたが、自分も「人間に関する諸科学の館」という名前の建物で研究しているので文句つける立場ではないのでしょうが、誰か言った方が良いですよね。。

でもウィキによれば、一方で、

「現代のオーストラリアのアボリジニ芸術家による作品が、今のオーストラリアの政治的文化的文脈から出た現代美術としてではなく、原始美術の一種として展示されていること」をオーストラリア人が批判したり、

「カナダのケベック州の人々は、カナダの展示品がほんの数点しかないことに抗議運動を起こした」りしているそうです。

前者は理解できますが、後者がなんだかなぞですね。。

西欧語では、「美」術館も「博」物館も、どちらも「Musée」的な一語ですんでしまうので、余計に面倒なのでしょうね(日本語では誰が分けたのでしょうか、気になる・・・)。

いっそ、「蝋人形の館」とかつけたらどうでしょうか。。。

個人的には、人の家の先祖の像とか勝手に持ってきて、それらが優劣つけがたく芸術だなんて言うよりは、素直に面白そうなので盗りましたと表明している博物館のほうが適切な気がしますが。。。