到着したら何をするのか
というわけで、またサンチャゴ・ネタですが、巡礼でその日の行程が終わって巡礼宿に着いたら何をするのか、ということです。
人にもよりますが、平均的なスケジュールで1日25kmくらい歩くとします。
そうすると、朝7:30くらいに宿を出ると、だいたい昼過ぎには13時くらいには着きます。
で、巡礼宿の消灯は22時とか23時なわけで、そうすると寝るまでに10時間くらいあります。
最初のうちは疲れ方が尋常ではないので、昼寝をして、夕食を食べて、で、夜寝ればいいわけです。
あるいは、着替えはだいたい2泊か3泊分を使いまわすわけですから、2~3日に1回は洗濯をしたりするわけです。
で、当然、ヨーロッパの洗濯機ですから、日本のようにさっさとは終わりません。
乾燥も入れれば、3~4時間はかかります。
しかし、時間つぶしの観点から見れば、重要なイベントです。
とはいえ、洗濯イベントは毎日ではないので、基本的には寝る→食う→寝る→歩くという、道で見かける牛とか羊とか野犬と似たような生活になります。
しかし、10日もしてくるとだんだん疲れにも慣れてきて、「昼寝はいいか」という感じになってきます。
そうなると、手つかずの10時間くらいが残ります。
こうやって放心しているのが、最大のオプションです。
1週間もする頃には放心の達人になっていて、3時間くらいは妄想で殺せるようになります。
しかし、それでも7時間は残ります。
シャワーと昼食を除いても、5時間は残ります。
巨大な空虚が襲ってきます。
これをどうやって潰すかが、次第に喫緊の課題になってきます。
重量の関係でガイド以外の本は持ってきていません。
いま思えば、500~700gくらいは目をつぶって、ヘブライ聖書とかクルアーンとか正法眼蔵とかアヴェスターとか、その手の気合のはいった本の、できれば英語とかフランス語とかの非母語でかかれたものを持ってきておけば良かったと思います。
が、しかし、持っていってないのだから仕方ありません。
スペインの田舎で、アヴェスターなんてどうやったって入手できません。
早めに飯でも食えば、と思うかもしれません。
しかし、スペインにいくたびに驚愕するのですが、スペインは、基本的に3~4時間くらい、一日の日程がすべてがずれ込んでいます。
つまり、昼ごはんは、14時~16時くらい、夕食は22時くらいが普通です。
そうなると、18時にレストランに行くと、「えっ!?」みたいな顔をされます。
日本の感覚で言えば、16時に夕食を食べようとするようなものです。
たしかに巡礼町のレストランでは、巡礼メニューというのを用意していて、多少早めに食べさせてくれます。
しかし、それにしたところで、早くても19:30。
しかも、早めに食べたら食べたで、食後の時間潰しが喫緊の課題になってきます。
じゃあ、「観光でもすればいーじゃねーか」と思いますが、これにもいくつか難点があります。
まず、足が痛い。
強烈に痛い。
で、レオンとかパンプローナとかブルゴスとか、多少大きめの町を歩いていても、すぐに巡礼者だって分かります。
みんな、足ひきずっていますからね。
私もかなり大きな町で、何回か、いきなり「Adios Peregrino!」と言われてびびったのですが、東洋人ということはあると思いますが、確かにパリとか東京で、こんなに足をひきずっている人が歩いていることはないと思います。
一度、地面についている血痕を辿っていったら、スーパーで買い物をしている巡礼者に辿りついたこともあります。
そんなわけで、足の痛さがあるために、観光といっても、なかなか億劫になってきます。
第2に、観光資源そのものが孕む問題がないこともありません。
たとえば、ポンフェラーダという町では「テンプル騎士団の城」が売り物になっています。
こんな感じです。
これ、結構時間が潰れる感じがしますよね。
ところが、3€くらい払って中に入るとびびります。
要するに、なにもありません。
壁しか残っていません。
しかも、たしかにこのあたりにテンプル騎士団の城が元々あったのは確かなことだそうですが、現在残っている「壁」を作ったのは、19~20世紀くらいの「地元の名士」だそうです。
中には、綺麗なカフェテリアとトイレもあるのですが、完全に閉まっています。
係員の方のお話によれば、「箱は作ったのだけれど、たぶんペイしないだろうし、これらがいつから稼動するのかは誰にも分かりません」とのことです。
早い話、地元の方も、「いかがなものか」と思われているのではないでしょうか。
あるいは、トリアカステーラという町は、翻訳すれば、「3つの城」という意味です。
そんなわけで、「3つも城あったら時間つぶれちゃう~」とか期待して行ったのですが、城は一個もありませんでした。
巡礼宿は3つくらいありましたが。
あと、1週間ぶりくらいに銀行を見かけた気がします。
さらに、すべてに共通する課題として、シエスタがのしかかってきます。
要するに、スペインでは、14~16:30くらいの間、バール以外の機能が停止して、ツーリスト・オフィスまで完全に閉まります。
つまり、一番暇に耐えられなくなる時間に、妄想以外のオプションがなくなるのです。
で、私の場合、最終的に、「もっと歩けばいいんだ」という結論に達し、毎日フルマラソンくらいの行程にして、18時以降に到着するように心がけました。
そんなわけで、これから巡礼に出かける方は、非母語で書かれた聖典をお持ちくださいませ。