新種

というわけで、とりあえずホテルの半径100mは先進国と決めて、うろうろとしておりました。

で、まあ、表現は色々あるとは思うのですが、一緒にいった皆さま方は大変に禁欲的な方が多く、
空いた時間には勉強されたりしているような感じでしたので、私も仕方なく部屋で七言絶句でこのやりきれなさを表現してみるかなどと考えていたのですが、
偶然、現在南仏に留学中のまったく禁欲的ではない学友と出会い、不思議なもので5分も歩くと、なぜか水煙草を吸いながらぐでんぐでんに酔ったおじさんがいるお店を発見しました。

「あれ、イスラーム圏って酒飲めんの?」と思ったのですが、どうやらチュニジアではフランス並みに厳しい政教分離が敷かれているようで、学校にスカーフなど絶対にできないようなお土地柄のようで、酒もまったく問題ないということでした。

最悪の場合、滞在中酒なしも覚悟していたので、おじさんを押しのけて入ってみました。

で、とりあえずはビール。

セルティアという地ビールで、どうやらチュニジアにはこれしかなく、したがって国民的ビールだそうです。

ま、味はスーパードライみたいな感じですが、気候にはすごくあっています。
特に真夏に45度みたいな偏差値0の天気になった時などは、大変に美味しいのだと思います。

で、これをよく分からないつまみと一緒に4、5本飲んだあと、やたらと店員がすすめるザクロのリキュールに手を出しました。

最近、ザクロとかって食べる機会もないし、なめてかかっていたのですが、これが40度くらいあるやつで、5杯も飲むと決してアフリカもすてたものではないような気すらしてくる麻薬的なものでした。

しかも、物価がきわめて安いので、ビールは一本100円くらい。

で、かなり酔ったまま学友と学会発表について話していて気づいたのですが、
そういえば翌日の発表会場ってどこなのだろうかということになりました。

場所はホテルなのですが、会場がいくつもあり、事前にはまったく教えられなかったわけです。

しかも、以前日本でやった時もそうでしたが、ホテルの部屋とかって当該地域の伝統文化を連想させるような、要するに外国人には恐ろしく分かりにくい「飛天の間」みたいな名前が付けられているので、そのへん、アフリカど素人としては大変心配になったわけです。

「舌噛んで死にそうな名前だったらどうしようー」などと言いながら、あちこちを彷徨い歩き、情報を集めながら探しました。

実際、「シディブサイード」とかそういった奥ゆかしい名前の会場もあり、どれも甲乙つけがたい複雑な名前だったのですが、

どうしたことか、われわれのものだけは、これが非常に分かりやすい文系院生でも理解できる名前でした。



  

というわけで、「あ、この人チュニジア人だったね、良くこんな暖かい国からアルプスみたいな田舎までいったよな〜」などと話しながら、同会場を「レクター博士の間」と名づけてあげました。

で、翌朝は地中海の波の音で目を覚ますわけもなく、明らかにザクロにやられた強烈な吐き気と頭痛と眩暈と郷愁でのたうちまわりながら起きて、とても朝食などを取る気にはならず、おそろしく濃いコーヒーを飲んでから発表会場へ向かい、自分でもどうしてこういう所に義理で来るとこんなにもけれん味のないことしか言わないのだろうと驚くくらいにつつがなく波風立てずに義理を立てて心静かに発表して、
というか二日酔いでフランス語話すと吐き気が倍プッシュだぜなどということも分かったので、あとはビーチに行ってパラグライダーをしているお調子者がものすごい勢いで墜落しても誰ひとり歯牙にもかけないのをにやにや眺めたり、
寄せては返す波を見ては、ああこの紺碧の海の先に世界一清潔な我が祖国があるのだな〜、国を出てから幾星霜、あれから一体何年たっただらう・・・・いや、良く考えてみると、仮にこの海を越えてもシチリアとかイタリアとか、良くてもせいぜいフランスとかで、相当がんばらないと祖国には着かないわけで、昔だったら考えてみると喜望峰を回らないとならないわけで、そういう意味ではスエズ運河というのはすげーな、西欧植民地主義もたまには役に立つな、あれは泳いで渡る時にも通行料をとるそうだけれど一体いくらなんだらう、というか不毛地帯の次回予告はたしか第三次中東戦争が勃発するか否かが争点になっていたけれど、あれもうやっちゃったのかな、財前先生大丈夫かなといった感慨にとらわれていたのでありました。

が、そうしたサウダージを抱えながらホテルへ帰ろうとすると、
道の向こうにとんでもない生き物があらわれました。
しかもとんでもない大きさです。







あれ、この新種の生き物って中国にしかいないと聞いていたのですが、ここにもいたんですね。

複製技術だか、ポストモダンだか、アウラだかしりませんが、
どうしてこう、偽物ってどうしても偽物感がぬぐえないのでせうか、ベンヤミン氏、ミッキーマウスに関してはまったくあたっていないと思います。
というわけで、次回不幸にも非先進国での発表機会にめぐまれましたら、「民度と著作権の相関性:アフリカの事例を中心に」というタイトルで発表したいと思います。