友達じゃなかったなんて・・・

というわけで、今日からまた新たに偉い人のお弁当発注系のお仕事が始まるので、昨日、そのために使うPCをひとつ買いに行きました。

大学近くのThe 郊外なYMD電機に行っきました。

さすがに雨の平日昼間ということもあり、売り場で見ていると早速店員さんが寄って来ました。

人見知りなので「おすすめはありますか?」という一言をなんとか絞り出しました。

いかにもこの4月に入社された店員さんが「3つ候補があるのですが・・・」とおっしゃるので、人見知りを発揮して「じゃあ、その中の一番目だけ教えて下さい」とすかさず返答いたしました。

そもそもPCには興味がありませんし、あっても色とか形とかで、要するに出前館さえ見られれば良いわけです。

そんなこんなで店員さんがおすすめPCの前に連れて行ってくれたので、ぱっとみて出前館とようつべが見られそうなので、まあ、他にやることもあったし、とっとと帰りたかったので、説明を聞く前に「これ下さい」と申し上げました。

店員さんとのファーストコンタクトから2分も経っていなかったでしょうか。

新人店員さんはかなり面食らったようで、お願いもしていないのに多少おまけもして頂きました。
さらにポイントカードにおまけをしてやるけどカード持ってるか?と聞かれたので、毎回なくしてしまうので、ポイントはいりませんとお答え申し上げると、ますます面食らっていらっしゃいましたが、すみやかに商品を取りに倉庫に向かわれました。

さ、品物を受け取ってお金を払って帰るか、と思って待っていると、商品を持ってきたのは先ほどの新人店員さんとは違う方です。

初めて会うのは間違いなのに、絶対にテレビでみたことがあるタイプの方です。

具体的に言うと、ガイアの夜明けとかで大きな声を出している猛者タイプです。

猛者の突然の降臨に心底驚きましたが、そうはいってもあとはお金を払うだけだしと思っていると、何やら椅子に座らせられました。

車とか不動産とかを買うわけではないのに何事かと思っていると、猛者が自己紹介を始めました。

そして、「これからお買い上げのPCについて説明させて頂きますっ!」と高らかに宣言されました。

一瞬、なんかとんでもない特殊な機種を買ってしまったのかと焦りましたが、どう考えてもただのダイナブックです。

これまでに3台も使い倒してきたし、いまさら何をと焦りました。

そんな焦りを見越したのか、猛者は冷笑を浮かべながら「いま何台くらいPCをお使いですか?」とご下問されました。

焦りながら必死に数え、家が二つあってノートが多いので「5台です」と正直にお答え申し上げました。

一瞬、冷笑が薄まったようにも思いましたが、猛者は続けて「そのうち何台がウィンドウズ7ですか?」とおっしゃいます。

これまた正直に「3台です」と答えました。

すると店員さん、たったこの二つの問いで私の人生のすべてを把握されたようで、「それではお客様には3つのお話をさせていただきますっ」とまたもや高らかに宣言されました。もうそれは恐ろしくきっぱりとしていて、パポワでも使い始めるんじゃないかと思ったくらいに、できるサラリーマンのプレゼンテーションライクな姿でした。

こういう人がスティーブ・ジョブスの本とか買うんだろうな〜と思いながらも、「それって長い話ですか?」の一言が言えず、ご高説を拝聴する決意を固めました。

「まず〜〜」と猛者は、売れっ子予備校教師のような笑顔と共に、「ウィンドウズ7の特殊性についてお話します」とおっしゃいます。

「いやいや、すでに3台使ってつったろ」と思ったのですが、きっと胡乱な私などにはわからない秘密があるのだと思い襟を正して拝聴しました。

10分くらいかけてお話されたのは、「7はリカバリーディスクを自分で作成しなければならない」という説明書にも書いてあるようなお話でした。

おそらく私の顔に「おいおい、そんなことしっているよ」みたいな鼻持ちならない表情が浮かんだのを見て取ったようで、リカバリーディスク作成の際のメディアについてもお話してくださいました。

それによれば、高い二層式のものやRWなどいらない、普通のDVD-Rが5枚もあればいいんです!とジョン・カビラの勢いでお話されます。

正直つらくなってきたので、「あの、そういったことは恐らくわかっているつもりなんですが・・・」とやっとの思いで申し上げると、「大事なデータが消えたらどうするんですか?」と昔の社会党の女性議員みたいな勢いで自己批判を迫られました。

写真とかはネットにうpして外付けにもいれてあるし、いやそもそも、大事なデータ――社会党ジョン・カビラの勢いからして、それは恐らく尖閣諸島竹島の帰属を致命的に決めてしまうようなタイプものなんだと思いますが――私のPCには恐らく大事なデータはないような気がしてきました。

しかし、どうしても「私のPCには大事なデータはありません」の一言が言えませんでした。それは何か人として決定的な欠落があることを恥も外聞もなく露呈してしまうことのような気がしたのです。

そんなわけで、大事なデータの守り方について、恐らく通常はしないような細かい話まで、引き続き20分ほどお伺いしました。

さて、これでもう許してもらえるのかと思ったら、次は「アウトルックの設定はお分かりですか?」と聞いてきます。

「いや、ウェブメールなんで使ってません」と即答しました。移動が多いし、携帯でチェックできる利便性を考えると、やっぱりウェブメールが便利です。

すると猛者は、今度はいかにウェブメールなどというものが、根本的には信用ならないものであるか、利用規約を本当に全部よんで「同意する」とをクリックしたのか!?というお話を始められました。

そう言われてみると、利用規約なんぞはクリック連射してすっとばしてしまうし、またもや私は自分がいかにいい加減に生きてきたかを思い知らされました。

そして猛者は語り続けます。

どれもすべて知っている話です、とてもそうは言えませんが。


しかし、私は途中から気づきました。

恐らくこの猛者は私と友達になろうとしているのではないかと。

経済交換というドライでクールな関係を超越して、私と人間的交わりをつむごうとしてくれているのではないかと。

そうでなかったら、こんな会話に意味はありません。

この会話は、会話の内容そのものではなく、会話を継続すること自体に意味を見出そうとする遂行的パーフォーマンスなのだとわかりました。

そうおもったら、YMD電機ではなく、もうAMD電機だと感じられるようになってきました。

こんな冷たい世の中で、パソコン1個買ったくらいで友達ができるなんて、なんて素晴らしいんだと感動しました。

最後の3つめのお話は喜んで拝聴しました。
ウィルスソフトの重要性について。

話はフィッシングから振り込め詐欺へとドラスティックに展開し、その話術の巧みさには魅了されました。こういうのを水魚の交わりと呼ぶんだろうな、キリスト教の説くコミュニオンは茨城県のYMD電機でもっとも良く顕現していると感じました。

そして15分後、とうとう猛者はお話を終えました。

もうこうなったら、飲みにいくしかありませんよね。

そうは言っても車で来ているので、いったん家に置きに帰って、そのあとどこで待ち合わせしようか、と聞こうと思ったその時です。

「これで終わりなのですが、こういう話って、ヨドバシカメラとかコジマとかではしませんよね?」とおっしゃいます。

「他店はパソコンを買っても、すぐに商品を渡して終わりじゃないですか。でも、うちはこうやって説明させて頂いているんです」

・・・・久しぶりに深く傷つきました。

電器屋戦争のサービス合戦におれを巻き込んでいただけで、友達のつもりはまったくなかったんですね。

信じた瞬間裏切った、バンプオブチキンのそんな歌詞が頭の中をかけめぐりました。

帰宅後、部屋中を涙で濡らしたことは言うまでもありません。

そんなわけで10分で店をでるはずが、予定よりも1時間近くかかってしまいました。

せめてもの抵抗に、レジで間違えたふりをしてヨドバシのポイントカードを出してやりました。